《 目次 》
・空気と腸の関係 … [項番 1 ~ 20 ]
食後に浮く場合 … 18 ~ 19
水替え後に浮く場合 … 20
・エア食い (空気の飲み込み) … [項番 21 ~ 34 ]
エア食いとは … 21
・水底に沈む場合 … [項番 35 ~ 46 ]
水面での浮き・転覆症状から水底に沈む流れ … 38
・給餌の問題 … [項番 47 ~ 56 ]
飢餓転覆とは … 51
・水中隔離 (エアーコントロール) … [項番 57 ~ 61 ]
・転覆病の病態 … [項番 62 ~ 67 ]
エロモナス菌との関係 … 65
・治療法一般 … [項番 68 ~ 70 ]
<エア食いの防止法>
・沈下性の餌 …27 ~ 29
・餌の増量、給餌間隔 … 30
・ネットを張る … 59
<消化不良・便秘の改善法>
・餌切り・絶食 … 47,54
・餌の増量 … 49
・空気の遮断 … 57
・餌の変更、加温、便秘薬など … 68
|
< 空気と腸の関係 >
1,水より軽い空気は浮力で浮き上がり、水より重い金魚の体は重力で沈む。金魚の体内(浮き袋)に取り込んだ空気の量で、金魚の体が浮くか沈むかのバランスが図られる。(水槽内では、水圧や水温の違いによる体積の変化は、あまり考慮しなくて良い。)
2,金魚は、体内(浮き袋)に一定量の空気を入れ、遊泳に適した浮力を一定に保ち、自らの遊泳力で上下に移動する。
3,金魚が水面で空気を吸うのは、浮き袋に空気を入れるための本能である。(金魚は、体が軽くなるため浮き袋に空気を入れたい。)
4,空気を吸った直後は、余分な空気を口とエラから吐き出すが、浮き袋に入れた空気は、腸へ排出される。
5,恐らく、金魚は、浮き袋に空気を入れて浮力を上げるのは得意だが、浮き袋から空気を抜いて浮力を下げるのは苦手だと思われる。(水面に顔を出して浮き袋の空気を抜くのは苦手で、水中で浮き袋から排出した空気は腸へ流れて行く。)
6,過剰な空気が浮き袋に溜まり、便秘等で排出できないと、過大な浮力が発生して水面に浮く。
7,転覆病は、飲み込む空気と腸内環境のバランスが崩れたときに発生する。(飲み込む空気が多く、かつ便秘のときが、最も症状が酷くなる。)
8,①過剰な空気の飲み込み(エア食い)と、②消化不良・便秘は、水面での浮き・転覆病の原因になる。
9,お腹(腸)に空気・ガスが溜まると、重力と浮力の中心にずれが生じて、お尻が上がってひっくり返る。
10,お尻が上がってひっくり返るのを防ぐため、絶えず胸ビレを動かしバランスを取り、水面付近に漂うようになる。
11,水面に浮いたり、水中でひっくり返る場合、便秘でお腹にガスや糞が溜まっていると、息んで暴れるように泳ぐことがある。
12,浮き袋に過剰な空気が溜まり浮力過大となっている場合、バランスを取ろうとして、水面に顔を出して激しくパクパクしたり、水鉄砲のように空中に水を吹き出したり、溺れているかのような行動をする場合がある。
13,浮き・転覆症状は、排便すると治まる(軽くなる)傾向がある。
14,長時間、お腹に空気・ガスが溜まるとお腹(腸)の調子が悪くなる。過剰な空気を浮き袋に飲み込んだ場合は、大量の空気がお腹に排出され長時間溜まるため、お腹(腸)の調子が悪くなる。
15,過剰な空気の飲み込み(エア食い)は、消化不良、便秘、腸炎の原因になり、転覆病を悪化させる。
16,水面での浮き・転覆症状があると、気泡フンが良く見られる。水面での浮き・転覆症状後に、体調不良を起こして底に沈んでいる金魚からは、おならの排出が良く見られる。(時に大量のおなら(ガス)を出すこともある。)
17,お腹にガスや糞が溜まっていたり、便の通りが悪いと、餌を食べる(飲み込む)のに時間がかかるようになる。
(食後に浮く場合 1/2)
18,お腹にガスや糞が溜まっていたり、便の通りが悪いと、餌を飲み込めずに(喉、食道に詰まらせ)餌を吐き出したり、浮き袋の調節が困難になり、食後すぐに立ち泳ぎになったり、転覆する。
(食後に浮く場合 2/2)
19,食後すぐに水面に浮く場合は、食前の金魚の泳ぎが普通に見えても、もともと浮力過大(金魚が力を抜けば浮く浮力)だった可能性がある。原因として、エア食いや便秘が潜んでいる。それが、食道や腸に餌を飲み込むことで浮き袋の調節が困難になり、力が入らなくなる、または力を抜いて休むことで浮き症状が発生するのではないかと思われる。食後しばらく経ってから水面に浮く場合は、餌の消化に伴い腸内で発生したガスか外部から取り込んだ空気により浮力が発生したものと考えられるが、多くは食後のエア食い(食後に飲み込んだ空気)が原因である。
(水替え後に浮く場合)
20,水替え後に、浮き・転覆症状が出る場合は、①もともと浮力過大だったものが水替えのストレスで顕在化した場合や、②水替えにより水温が急に下がった場合、③水替えにより新たに供給した水に過剰な酸素や窒素が含まれていた場合、が考えられる。これは、特に、窒素ガス病の一種として、曝気していない井戸水で換水量が多い場合に起こりやすい。(井戸水(地下水)は、もともと溶存窒素が多いうえ、ポンプでくみ上げる際などに大気中の窒素が溶け込み、窒素過多になりやすい。それが金魚の体内で遊離し、窒素ガスが、特に浮き袋の前室に溜まって症状が出る。)
< エア食い(空気の飲み込み)>
(エア食いとは)
21,「鼻上げ」と、いわゆる「エア食い(空気食い)」は、全く別のものである。酸欠により弱った金魚が水面に顔を出す行動を「鼻上げ」と言い、水面から酸素を含んだ水をエラに取り込もうする行動である。一方、「エア食い」は、元気な金魚が餌を欲して空気を飲み込む行動である。(まるで空気を食べるがごとき行動から「エア(ー)食い」と呼ばれるが、実際に空気を食べているわけではない。なお、一般的なエア食いの意味は、エアギター(ギターを弾く真似)のように、食べる真似という意味で使われるが、それとも異なる。)
22,食後のエア食い(空気の飲み込み)行動は、餌を探す行動ではあるが、金魚が給餌により興奮して行っているもので、ストレスが根底にあり、ある意味、金魚の癖である。一部、消化管の不快感を解消(掃除)するために行っているような様子が見られる場合もある。(食後のエア食いを繰り返すうちに、食事とエア食いが結びついた記憶になり、食後の一服のように日課になってしまっていると思われる。)この行動は、餌の種類(浮上性、沈下性)を問わず行われる。また、餌を投与しなくても条件反射的に行われる場合もある(いつもの給餌時間に餌やりを忘れた場合等)。
23,エア食い行動は、何等かのストレスを抱えた金魚に見られるようである(餌が少ない、目が悪くて餌を見つけられない等)。また、加齢(3歳以降)や、季節的な体調の変化も影響しているかもしれない。人間が水槽の前で人工飼料を定時に定量投与するよりも、自然に近い環境の方がエア食いという問題は起こりにくいと思われる。その点、金魚が食べる水草や緑ゴケのある環境の方が、エア食いは減るかもしれない。また、環境が変わるとやめることもある。しかし、一般的な水槽飼育では、やめさせるのは難しい。どうしてもエア食いをやめさせたい場合は、水面付近にネット(網)を設置する等して、金魚を水中に隔離するしかない。(ただし、水中隔離を行うと、金魚の浮力がなくなり別の問題が発生する場合がある。)
24,エア食いには、①パクパク、②もぐもぐ、③ぽこぽこ、の3つのタイプがある。パクパク病は、餌を探して水面の水を吸い込むようにパクパクしたり、空気を吸い込むことを目的にパクパクしては空気を吐き出すことを繰り返すタイプで、エア食いの一般的なタイプである。もぐもぐ病は、まるで空気を食べるかのように、飲み込んだ空気を咀嚼し、なかなか吐き出さないタイプで、この場合はストレスが大きく、餌が足りていないと思われる。ぽこぽこ病は、口を開けたまま、空気の泡を出したり引っ込めたりするもので、暇つぶし・遊びの一環、餌が欲しいアピールの一種だと思われ、これ自体はあまり悪影響はないが、既に浮力過大で水面に浮いていたり、便秘が重なっていたりすると影響が出る可能性がある。
25,金魚がエア食いをしても、その程度が軽く、うまく空気を吐き出している場合、また、エア食いしても便秘でない場合は、何も問題が起こらない場合もある。しかし、エア食いが酷いと過大な浮力を発生させ、また、過剰な空気が消化不良・便秘を引き起こし、水面に浮いたり転覆して、転覆病のきっかっけになる。
26,水面での浮き・転覆症状があると、水底に潜るのが疲れるため水面で餌を探そうとする。水面にいる時間が長くなるため必然的にエア食い(空気食い)が増え、浮き・転覆症状が悪化する(過大な浮力の発生、便秘の悪化)という悪循環に陥る。
★(エア食いの防止法 1-(1)/3 ~沈下性の餌)
27,金魚が水底で砂利をつつくのも(下)、水中でアクセサリーや突起物をつつくのも(中)、水面でパクパクするのも(上)、これらは全て、餌を探す行動ではあるが、給餌による興奮だったり、また、無意識に行うストレス発散行動でもあり、同じ行動様式と思われる。そのため、沈下性(沈降性)の餌を使って、餌が水底(下)にあると覚えさせることは、エア食い防止に一定の効果はあるが、確実なものではない。沈下性の餌を使って、餌が水底にあることを覚えさせても、金魚はそれとは別にエア食いをする。水面に餌を探しに行くし、必ずしも餌を探しているわけでもない。また、金魚が浮力過大(便秘)で浮き気味のときは、下に潜るのが疲れるため、水面に上がってエア食いをする頻度が上がる。
★(エア食いの防止法 1-(2)/3 ~沈下性の餌)
28,沈下性の餌を使っても、給餌方法によっては、金魚に、水底に餌がないという判断をさせる場合がある。例えば、沈下性の餌をいつも同じ場所に投与すると、金魚はそれを学習し、給餌が終わると途端にエア食いを始める。もはや水底に餌がないことを理解しており、水底で餌を探そうとせず、興味は水面に向かう。沈下性の餌をパイプ(筒)を使って水底に落とす方法があるが、この場合も同様である。利点として、餌が狭い範囲で確実に素早く落下し、餌の匂いが水面に飛散するのを防ぎ、また、餌がパイプの先から出て来て、底にあることを覚えさせやすいが、エア食い防止につながらない場合もある。また、床の上の餌の有無をすぐに認識できるベアタンクも、同様の傾向が見られる。
★(エア食いの防止法 1-(3)/3 ~沈下性の餌)
29,長時間、水底で餌を探させ、エア食いの頻度を減らすには、砂利のある床の上に、沈下性の餌を四方八方にばらまくのが良いと思われる。ただし、餌が砂利に埋もれて金魚が見つけられないと、残餌が増え、水質の悪化が懸念される。(【参考】フレーク状の餌を水中(水底)に拡散させたい場合は、「もぐもぐバスケット」にセットして水中に沈めた後、「もぐもぐバスケット」を振り回す(回転させる)と良い。(磁力が強いのでガラス面から少し離しても操作できる。ガラスとの接触を避けた方が傷がつきにくい。) また、大きなパイプの中にフレーク状の餌を落としてから振る方法や水流の出口に落とす方法もある。)
★(エア食いの防止法 2/3 ~餌の増量、給餌間隔)
30,エア食いによる浮き・転覆症状を防止するには、餌を増やすか(状況によるが、2~3倍に増やすと改善する事例が多い)、または、給餌回数を減らす(給餌間隔を空ける)(例えば、1日2回→1日1回に変更、5日に1度の餌やり等にする)ことが考えられる。前者はエア食い自体が減少し、後者はエア食いの回数を減らす効果がある。ただし、後者の場合、5日に1度のように、極端に日数の間隔が空くような給餌方法(絶食の反復に近い)を取ると、死亡率が上がるというデータがある。
31,エア食いする金魚としない金魚が混在している場合、エア食いする金魚を悪と捉えるのではなく、個性と考え、たくさん餌を与えた方が、その金魚にとっては幸せである。エア食いしない他の金魚の餌の量に合わせようとしたり、人間の都合で決めた餌の量(少量)を押し付けようとするのは、間違いかもしれない。
32,浮上性の餌を食べる際にも空気を飲み込む。健康な金魚には影響ないが、水面での浮き・転覆症状を起こす金魚には影響がある。
33,転覆病(水面での浮き・転覆)の予防には沈下性の餌の方が良いと思われるが、水底に潜るのが困難なほど強い浮力があるときは、無理に沈下性の餌を与えるべきではない。なお、転覆病になる要因は、浮上性か沈下性かという餌の違いよりも、エア食いの頻度と消化不良(便秘)の方が、関係性が強い。
34,長期間、過剰に空気を飲み込むと、浮き袋の肥大や炎症による萎縮、腸の肥大等を起こす可能性もあるかもしれない。
< 水底に沈む場合 >
35,お腹(腸)の調子が悪いときや何らかの病気で体調不良のときは、底に沈んで動かない。軽症時は、給餌のときだけ元気に泳ぐが、しばらくすると底に沈んで休む。中等症では、餌を食べる動作も含めて、力なく弱弱しい泳ぎをしている。重症になると、餌を食べる元気もなく、じっとして動かない。消化不良で便秘や下痢を起こしている場合になりやすいが、水面での浮き・転覆症状が発生するぐらいの過剰な空気の飲み込み(エア食い)の後にも、腸の調子が悪くなり発生しやすい。
36,お腹(腸)の調子が悪くて(腸に空気・ガスが溜まっている、便秘、下痢、腸炎で)、症状が重いときは、呼吸が荒くなったり、咳をするような様子が見られる場合がある。また、空気を吸ったり餌を飲み込んだ後に、咳き込んだり、床の上で跳ねるような波打つ痙攣を起こす場合は、腸炎が悪化しており危険な状態である。基本は絶食治療となる。
37,水面での浮き・転覆症状になり(空気の飲み込み)→ その後、底に沈んでうずくまる(空気・ガスが溜まって腸炎)→ 再び、水面での浮き・転覆症状になり(空気の飲み込み)→ また底に沈んでうずくまる(空気・ガスが溜まって腸炎)という連続性があり、良くなったり悪くなったりを繰り返し、段々弱って行く。
(水面での浮き・転覆症状から水底に沈む流れ)
38,過大な浮力(空気)により、水面に浮いて転覆した後は、過剰な空気・ガスが腸に流れる(溜まる)ことで腸の調子が悪くなる。体調不良を起こして、水面に浮いたまま、または、水底に沈んで休むようになるが、時間が経って浮き袋の空気・ガスが抜けると、浮力が小さくなり、底に沈んで休むようになる。体調不良が続き、沈んでいる時間が長くなると、さらに空気・ガスが抜け、今度は浮力がなくなり、泳ぐのも浮上するのも大変になる。その後、調子が良くなれば、体力があるうちは、自身の遊泳力で浮上して、空気を吸って浮き袋に空気を入れて、浮力を得て泳ぎ出す。しかし、転覆状態から起き上がるのも浮上するのも大変なので疲れてしまい、それらが繰り返されると、段々体力を消耗し弱って行く。(浮き袋に病変が起こると浮上できなくなる場合もある。) 体力がなくなり弱ってしまうことで免疫、抵抗力が衰え、何らかの病気に罹患する。最後は、栄養不良、衰弱、感染症、腸炎、内臓疾患、機能不全、松かさ病などで死ぬ。
39,浮力が弱いときにお腹にガスが溜まっていると、水中や底でひっくり返る。
40,水中や水底での転覆は、体力の消耗(低下)でも起こり、体力を消耗しているとき(疲れて元気がない、起き上がる体力がなく弱っているとき)は、底でひっくり返って動かない(沈んで転覆)。お腹の浮力(ガス)が強すぎて起き上がれないときも、底でひっくり返ったままとなるが、この場合も相当疲れている。水温が低くて動きが鈍い場合や、高齢で体力が衰えている場合も、底でひっくり返って動かない状態が発生しやすい。
41,水面での浮き・転覆症状のある金魚の餌抜きをすると、お腹のガスは抜け、水中に沈んで行き、浮き・転覆症状は改善する。転覆病の治療として一時的な絶食は有効である。しかし、餌を減らすことが転覆病の治療法だと信じ込むのは危険である。転覆病の金魚は、普通以上に体力を消耗し疲れているため、転覆症状が続いている中で(転覆病が治らないまま)何度も餌抜き(絶食)を繰り返したり日常的に餌を減らすと、栄養不足となり、ますます体力を消耗して弱って行く。その結果として、底に沈んでひっくり返る(水底で転覆している)という場合がある。そのままの状態を続けると、いずれ衰弱して死んでしまう。
42,浮いて転覆していたものが、沈んで転覆するようになると症状は悪化している。
43,金魚が泳ぐのをやめると沈んでしまうという場合は、浮力が弱い状態で金魚自身の遊泳力で頑張って泳いでいたものの疲れてしまったものであり、相当に体力を消耗して弱っている。
44,水中や水底でひっくり返ったまま餌を食べたり、水底で横倒しになると、相当弱っている。
45,症状が進行すると、空気を吸ってもなかなか浮力がつかない、長時間浮力を保持できない等、浮き袋の病態が悪化する。
46,浮き袋内には、水の浸入や餌の誤嚥もある。そのため、浮き袋や気管(浮き袋と腸をつなぐ管)が細菌感染して炎症を起こす場合もある。
< 給餌の問題 >
■(消化不良・便秘の改善法 1-(1)/4 ~餌切り・絶食)
47,一般的に、消化不良、便秘のイメージから思い浮かべることは、餌の与え過ぎにより消化不良が起こったと考え、餌を減らそうとする意識が働く。実際に、金魚の体調不良時に餌をやったり、餌が多すぎたりすると、消化器官に負担がかかって消化不良を起こしてしまう。そのため、消化不良で浮き・転覆症状を起こしている場合や、体調不良でじっとして動かない場合、便秘・糞詰まりが疑われる場合等は、餌を控える(絶食にする)べき場面である。しかし、餌を少なくすることで、かえって逆効果になる場合もある。
48,餌は多すぎると消化不良(便秘、下痢)の原因になるが、少なすぎても便秘(便の停滞)の原因となる。ただし、餌が多すぎて消化不良になるのは、主に金魚の消化力が落ちる低水温時や温度変化が大きいときの話であり、ヒーターによる加温飼育や高水温時に餌を減らすのは間違いの場合がある。
■(消化不良・便秘の改善法 2/4 ~餌の増量)
49,餌が多く連続的に摂餌する場合は、消化液の分泌も多く、便はスムーズに腸管内を移動し排便速度も速いが、餌が少ないと消化液の分泌(消化能力)が低下し、消化吸収のため便が長時間、腸内に滞留し、便秘になりやすく、また、餌を欲してエア食いも増える可能性がある。その場合、エア食いと便秘のダブルパンチで症状は酷くなる。逆に、低水温でない限り、餌を多く与えた方が、結果として便通が良くなり、エア食いの減少や転覆病の予防になると思われる。(一度に与える餌の量を増やすよりも回数を増やした方が、健康的な給餌方法になると思われるが、回数を増やすと、その分、給餌に興奮して行うエア食いの回数も増えるかもしれない。なお、餌を増やすと水質の悪化や細菌の増殖が速いので、こまめに水替えを行わないと尾腐れ病等を発症しやすくなる。(①高水温、②水質悪化(餌が多い、換水間隔が長い)、③転覆病、の3つが重なると尾ぐされ病になりやすい。)また、小さい水槽では、運動不足による肥満にも注意が必要。)
50,転覆病を防止するため餌の増量を試みる場合、当初は、便秘で腸内に糞やガスが溜まっていたり、消化能力が落ちていることが考えられるため、餌を増やしても、直後はかえって症状が悪化したように見えたり、落ち着くまでしばらく不安定な状態が続く場合もある。また、少し増やした程度では、通常、改善が見られない。餌のやり方は、最初から2~3倍の餌を与えるか、少しずつ増やして行くか、回数を増やすか、金魚の様子を見ながらの判断となるが、体調不良時や低水温時、便秘・糞詰まりが疑われる状況では、慎重に判断しなければならない。
(飢餓転覆とは)
51,いわゆる「飢餓転覆」という言葉を最初に考案した人の主張は、餌を多く与えると転覆病が改善する症例を複数経験したことから、転覆は餌が少ないことによる虚弱体質が原因だと考えたものであり、あえて消化の悪い高蛋白、高脂肪の餌を多めに多数回与えると、最初の1ヶ月は転覆するが、そのうち体格が良くなり、体力がつけば転覆症状が治るという主張だったようだ。それが、他の人に伝わる中で、飢餓転覆の意味は、餌が少ないとお腹をすかしてエア食いをするから転覆するという解釈や、餌が少ないと栄養失調で弱って転覆するという解釈が登場した。(なお、飢餓転覆の発案者の書き込みは2011年だが、餌を増量したら転覆症状が改善したことを指摘する書き込みは、筆者が調べた限りでは、別人によって2003年にもされている。) 筆者の考えでは、餌を増量することにより、金魚の消化能力が向上し、消化不良・便秘が起こりにくくなる(体質が改善する)のと、エア食いが減少することにより、転覆病が改善するものと思われる。また、消化不良を心配するあまり慢性的に餌を減らした結果、まさに「飢餓転覆」という言葉の通りに、栄養不足により体力が低下(衰弱)して転覆しているケースもある(餌を増量することで体力が回復し元気になる)ことが考えられる。
52,餌の増量等により浮き・転覆症状が改善した場合でも、水温の上昇などがきっかけで、再びエア食いが始まり、または便秘になり、浮き・転覆症状が再発することはある。
53,餌の種類によって、転覆症状の発生の有無に違いが出る場合がある。恐らく、消化の良し悪し、腸内での膨張や滞留、便の通りの良し悪しに違いがあるものと思われるが、それ以外に、餌の種類によって、同じ時間でも与える量(食べる量)に差が出るという点や、嗜好性(金魚の興奮度)の違いによってエア食いの程度に差が出る可能性もあるかもしれない。
■(消化不良・便秘の改善法 1-(2)/4 ~餌切り・絶食)
54,転覆病の治療として、便秘の解消、腸内のガスを抜くこと、腸を休ませること(腸炎の鎮静)を目的に、数日~1週間程度の一時的な絶食(断食)は有効である。ただし、絶食を何度も長期間にわたって行うべきではない。また、日常的に餌が少ない場合や疲労して体力を消耗している場合は、絶食すると栄養不足でかえって弱ってしまう場合もあるので、注意しなければならない。
55,転覆症状が治らないまま、中途半端に少ない餌を与え続けると(日常的に餌を減らすと)、エア食いの増加に加え、慢性的な便秘となり、腸内に糞やガスの貯留が継続し、さらに栄養不足による体力の消耗が進み、死期を早める可能性がある。
56,糞の状態が悪い場合は(典型的な消化不良の糞は白い糸くず状の糞だが、これは)、飲み込む空気が原因で消化不良を起こしている場合がある。また、餌が少ないことが原因で糞の状態が悪い(糞も少ない)という場合もある。こういう場合は、強制的に水中に閉じ込め、空気を吸えない(エア食いできない)措置を講じたり、または、餌を増やせば健康的な糞をするようになる。
< 水中隔離(エアーコントロール)>
■(消化不良・便秘の改善法 3/4 ~空気の遮断)
57,空気を吸えない(エア食いできない)ように金魚を水中に閉じ込めれば、水面での浮き・転覆症状は改善する。エア食いが原因で浮き・転覆症状を起こしている場合は、通常、過剰に飲み込んだ空気が原因で消化不良も起こしているので、水中に閉じ込めることで、餌を変えることなく消化不良も改善し、健康的な糞を出すようになる。
58,金魚の水没(水中隔離)は、転覆病の治療として役に立つ。ただし、水中に閉じ込める時間が長くなると、体内のガスが抜け、浮力がなくなり、今度は逆に、底に沈んだままになってしまう。場合によっては金魚が体力を消耗したり、床との接触面に充血や感染症を起こす可能性もある。そのため、定期的に金魚の水没状態を緩和して、空気を吸う量を調節することが望ましい。(隔離装置内にエアレーション(ぶくぶく)を設置すれば、エアレーションの泡から適量の空気を吸う金魚もいる。)
★(エア食いの防止法 3/3 ~ネットを張る)
59,エア食いによる水面での浮き・転覆病を予防するには、毎食後2時間だけ水面をネット(網)等で覆い、その間、空気を吸えなくすることが効果的である。(金魚が給餌により興奮してエア食いするのは、食後1~2時間程度であり、エア食いの禁止を食後2時間に限定することで、金魚の浮力を適正に保ち、水底への沈没を免れることができる。(ストレスの大きい金魚は、もっと長時間エア食いする場合もある。) なお、完全に空気を吸い込めなくするには、ネットは水面から1.5~2cm以上水没させる必要がある。)
60,通常、餌抜きや絶食をすれば、お腹のガスは抜け、また、その間、エア食いは抑えられるので症状は改善する。しかし、給餌を再開すると、直後は腸の働きが悪い上、餌の刺激に興奮してエア食いも再開されることになれば、再び転覆・浮き症状が再発する結果となる。こういう場合は、むしろ餌を増やすこと、または、過剰な空気を吸わせない工夫が改善策になると思われる。
61,浮いたり沈んだりを繰り返して転覆病が治らない場合は、餌が少ないことによるエア食いが原因の可能性がある。また、空気を飲み込むたびに腸の調子を悪くし(腸炎を起こし)、衰弱する原因になっていると思われるので、空気を吸わせないことが改善策となる。よって、金魚が元気な場合は餌の増量も検討できるが、体力を消耗し弱っていると思われる場合は、水中に隔離して、安静にすることで回復を促すことができる。
< 転覆病の病態 >
62,加齢(3歳以降)や食後のエア食いがあると、転覆症状は発生しやすい。また、温度変化が激しいとき(寒暖差の大きい春秋、水替え時)や低水温時(冬)に、餌のやり過ぎや消化不良(便秘)を起こして発生しやすい。肥満も、体が重くてより疲れる、内臓疾患を起こしやすいという点で症状を悪化させる可能性がある。
63,短時間、短期間に水温の変化が大きいと金魚は体調を崩し、消化不良(便秘)になりやすい。予防のために、秋は早めにヒーターを設置して水温を調節するのが良い。(ヒーターは、冬に水温を上げる目的だけでなく、春秋に温度変化を小さくする目的で利用すると良い。)
64,転覆病は、疲労し体力を消耗する。転覆病が続くと、元気そうに見えても、実際には疲れてくたくたになっており、疲労と腸の疾患(消化不良・腸炎の悪化)で衰弱して行く。年齢や症状によるが、数ヶ月から数年で、最終的に衰弱死する。転覆病になると、衰弱により抵抗力が衰え、他の病気を発症することが多く、尾腐れ病等の感染症、循環器疾患や腸炎をこじらせる等の内臓疾患、松かさ病等により死亡する。
(エロモナス菌との関係)
65,転覆病の症状の悪化にエロモナス菌が関与している可能性がある。水温変化、低水温、長期間の絶食(飢餓)、転覆による疲労等のストレス下において、金魚の抵抗力が衰えたところに腸管内のエロモナス菌が増殖する。各種病魚の腸内細菌数は通常より多く、特にエロモナス菌の増加が見られる。エロモナス病が進行すると魚は貧血になる。エロモナス菌の出す毒素が血液を通して全身を回り、貧血(溶血、腎機能低下)を起こし、体力が落ちて行く。また、腸内環境の悪化、腸炎、内臓の機能不全、炎症、壊死、充・出血、浮腫、腹水、立鱗(松かさ病)を起こすという流れが考えられる。
66,高齢で転覆病を発症すると回復しにくい。死期が近いかもしれない。
67,転覆病に初めて罹患すると、飼い主も治療に励み、金魚も若くて回復力があるから治りやすい。しかし、再発して何度も繰り返すうちに慣れが生じ、転覆病を放置するようになる。そのときが、金魚が死ぬときである。(放置すると死んでしまう。)
< 治療法一般 >
■(消化不良・便秘の改善法 4/4 ~餌の変更、加温、便秘薬など)
68,消化不良を改善し便通を良くする方法は、①消化の良い餌を選ぶ、②乳酸菌、クロレラ等を与える(整腸便秘薬)、③加温する(消化促進)、④餌を少なくする、または、多く与える(症状に応じて検討する。低水温下では、餌は少なくする)、⑤過剰な空気を吸わせないこと(便秘解消、腸炎の鎮静)、が考えられる。また、それに加えて転覆病の治療中は、⑥絶食(便秘解消、腸炎の鎮静。やり過ぎには注意)、⑦0.5%塩水浴(体力回復のため)、⑧水位を下げる(負担軽減)、⑨ココア浴(便秘薬)、⑩エプソムソルト浴(便秘薬)、⑪エロモナス菌対策(競合細菌やオキソリン酸等の薬浴、薬餌)、が考えられる。
69,転覆病の治療中は、安静にして体力の回復を図ることが重要であり、肥満解消のためとして餌を減らしたり、水流を強くする等して運動させようとするのは間違いである。
70,転覆病の初期で体力があるうちは、加温は、消化の促進や活性の向上に役立つが、かなり衰弱した状態では、加温のし過ぎは、かえって体力を消耗させ、逆効果になるかもしれない。加温のし過ぎは、細菌感染症を悪化させる可能性もある。
金魚の転覆病 (1) 概要 |